200海里は何キロ?海の掟「排他的経済水域」は漁師の常識

海洋漁船

あなたは、200海里何キロあるのかご存じですか?

  • 日本の主な漁場は200海里水域内で行う事となっています。
    この水域は「排他的経済水域」とも呼ばれます。

どうも、元・遠洋航海士の湊です。

太平洋からインド洋まで、35年間、マグロ船のブリッジに立ち続けてきました。

さて、あなたも「200海里」という言葉、ニュースで耳にしたことがあるかもしれませんね。

「また漁業権の話か…」と、どこか他人事に感じていませんか?

正直に言いますと、私も若い頃はそうでした。

ですが、この「200海里」を知らなかったばかりに、異国の海で捕まりかけ、

人生を棒に振るところだったのです。

【結論】200海里は、ズバリ「370.4キロメートル」です

200海里は何キロなの?答え・370.4キロメートルです

1海里1852メートル

1海里1852メートル)×200=370400メートル

衝撃の計算方法!なぜこんな中途半端な数字なのか?

まず、結論から。

大海原で絶対のルールとなる200海里この距離は、私たちに馴染みのある単位に直すと370.4キロメートルとなります。

「え、なんでそんなにキリが悪いの?」と思いますよね。当然の疑問です。

これは、海の距離の基準が、陸とは全く違うことに由来するのです。

  • 【数字の取得方法】
    • 海の距離の基本単位は「海里(かいり)」または「マイル(nautical mile)」と呼ばれます。
    • 1海里は、地球の子午線(経線)の緯度1分に相当する長さと定められています。地球は完全な球体ではないため、場所によって若干の誤差はありますが、国際的には1海里=1,852メートルと定義されています。
  • 【計算式】
    • 1,852メートル(1海里) × 200海里 = 370,400メートル
  • 【結果】
    • 370,400メートル ÷ 1,000 = 370.4キロメートル

このようになります。ですから、東京からだとおよそ名古屋市を少し超えたあたりまでの距離。

途方もない広さだということが、少しは実感できるでしょうか。

この数字が、国家の運命を左右することさえあるのです。

「200海里」って、一体なんですか? – 荒波の上で学んだ海の掟

戸惑いの始まり – 「排他的経済水域(EEZ)」との出会い

「200海里までがウチの海だ、なんて言われても、正直ピンとこないですよね。」

私も1996年、国連海洋法条約が発効し、

この「排他的経済水域(EEZ)」というルールが本格的に運用され始めた頃は、

海の上に目に見えない壁が突然現れたようで、ひどく戸惑ったものです。

それまでは、もっと大らかな世界だったんですよ。

魚の群れを追って、どこまでも自由に船を走らせられた時代が、確かにありました。

しかし、この条約以降、沿岸国が自国の岸から200海里(約370.4km)までの海域で、

魚や海底資源といった経済的な権利を独占できるようになったのです。

これが「排他的経済水域(Exclusive Economic Zone)」、通称EEZです。

排他的経済水域(EEZ)とは?答え・「水産資源や海底資源などを利用する権利を持つ、沖合200海里までの海域」 です。
排他的経済水域

このルールは、沿岸国にとってはまさに「宝の海」。

しかし、私たちのような遠洋漁業の人間にとっては、死活問題でした。

昨日まで最高の漁場だった場所が、今日から「立ち入り禁止」になる。

そんな理不尽が、海の上ではまかり通っていたのです。

絶望の拿捕事件 – 私の苦い失敗談

あれは2001年の夏、インド洋、スリランカ沖での出来事でした。

私が一等航海士を務めていたマグロ延縄(はえなわ)漁船「第一黒潮丸」は、キハダマグロの大群を追っていました。

大型海洋漁船

「湊、あと1海里だけ南に寄せろ!魚群探知機に真っ赤な反応が出てる!」

ベテランの佐藤船長が、興奮気味に叫びます。

当時のGPSはまだ精度が甘く、海図と睨めっこしながらの操船でした。

私も「これくらいなら大丈夫だろう」と、スリランカが主張するEEZの境界線ギリギリを攻める判断を下したのです。

それが、地獄の始まりでした。

仕掛けた延縄を揚げている最中、水平線の向こうから灰色の船影が猛スピードで近づいてくるのが見えました。

スリランカの警備艇です。サイレンが鳴り響き、国際信号旗が掲げられる。「停船せよ!」という命令でした。

血の気がサッと引きました。EEZをわずか0.5海里(約900メートル)侵犯していたのです。

無線からは、我々を捕えようとする通告が…。船長や乗組員の顔から色が消え、船内は凍りつきました。

捕えられたら、船も魚も没収、我々は長期間拘束される。家族の顔が、次々と脳裏をよぎりました。

結局、必死の交渉と会社の尽力で、多額の罰金を支払うことでなんとか解放されましたが、

あの時の恐怖と屈辱は、今でも忘れられません。

静岡県の焼津港に帰港したときの、何とも言えない気まずい空気。

この失敗から得た教訓はただ一つ。「海の上のルールは、命と金に直結する」ということです。

たった数百メートルの油断が、全てを奪い去る。このことを、骨の髄まで叩き込まれました。

領海や公海とは何が違うの? – 知らないと損する境界線の話

ゾッとする境界線 – 領海・接続水域・排他的経済水域(EEZ)の明確な違い

さて、私の失敗談で少しは「境界線」の重要性が伝わったでしょうか?

海には、EEZの他にも「領海」や「公海」といった区分があります。

これを混同すると、とんでもないことになります。

項目領海接続水域排他的経済水域(EEZ)公海
岸からの距離12海里 (約22km)領海の外側12海里 (岸から24海里)200海里 (約370km) (領海を含む)EEZの外側
国の権利完全な主権 (領土と同じ)密輸や不法入国の取り締まりが可能漁業や資源開発の経済的権利を独占全ての国が自由に使用可能
外国船の航行無害通航権のみ (沿岸国に害を与えない航行)自由な航行が可能自由な航行が可能自由な航行が可能
上空の飛行領空 (許可なく飛行不可)自由な飛行が可能自由な飛行が可能自由な飛行が可能
例えるなら?自宅の「家の中」自宅の「庭先」広大な「家庭菜園」誰でも通れる「公道」

お分かりいただけますか?「領海」は完全にその国の領土と同じ扱いなのです。

ここに許可なく侵入すれば、それはもう「侵略」と見なされても文句は言えません。

それに対して、EEZはあくまで「経済的な権利」(天然資源の探査・開発や漁業活動など、経済的な権利を排他的に認める水域)が及ぶ範囲で、領海とは異なります。

そのため、他国の船がそこを航行したり、上空を飛行機が飛んだりすることは自由なのです。

この違いを理解していないと、「日本のEEZに外国の船がいる!けしからん!」と、少し見当違いな怒り方をしてしまうかもしれませんね。

日本の排他的経済水域(EEZ)って、実はすごいんです

衝撃の広さ!世界第6位の海洋大国ニッポン

ところで、日本のEEZ(領海含む)の広さがどれくらいか、想像できますか?

  • 【具体データ】
    • 日本の国土面積:約38万平方キロメートル
    • 日本のEEZ面積:約447万平方キロメートル

なんと、国土の約12倍もの広大な海域を、私たちは持っているのです。

この広さは、堂々の世界第6位。アメリカ、フランス、オーストラリア、ロシア、カナダに次ぐ広さです。

私が若手航海士だった1980年代後半、ベテラン漁師たちが「日本の周りの海は宝の山だぞ」と、

よく酒を飲みながら語っていました。

当時はピンときませんでしたが、今、このデータを見ると、

その言葉の意味がどっしりと心に響きます。私たちは、紛れもない海洋大acorなのです。

涙の教訓 – 沖ノ鳥島、執念の護岸工事

この広大なEEZを語る上で、絶対に外せない島があります。

それは、日本の最南端にある「沖ノ鳥島」です。

沖ノ鳥島

「ただの岩じゃないか」と揶揄されることもある、あの小さな島。

しかし、あの島があるおかげで、日本は約40万平方キロメートル(日本の国土面積より広い!)ものEEZを得ているのです。

ところが、この島は満潮時には海面下に沈んでしまう危機に常にさらされていました。

もし、波の浸食で島が消滅すれば、国連海洋法条約の「島」の定義から外れ、

この広大なEEZも一夜にして消えてしまう。

それは、日本の水産業や将来の資源開発にとって、計り知れない損失を意味します。

そこで、1980年代後半から、日本は国を挙げて護岸工事を行いました。

チタン製の保護ネットで島を覆い、コンクリートで固める。

荒れ狂う外洋での工事は困難を極めたと聞きます。

多くの技術者が、まさに「国益」をその双肩に背負い、波と戦ったのです。

これは、私の直接の失敗談ではありません。

しかし、同じ海で生きる者として、この話を聞いたとき、胸が熱くなりました。

私たちが当たり前のように享受している豊かな海の幸は、こうした先人たちの執念と、

静かなる戦いの末に守られてきたものなのです。

その事実を、私たちは決して忘れてはならないでしょう。

200海里の未来 – これからの海と私たちの関わり方

ざわめく資源戦争 – 海底に眠るレアメタルの夢

さて、200海里の話は、もはや魚だけの話ではありません。

今、世界の注目は、EEZ内の「海底」に眠る資源へと移っています。

日本のEEZ内には、「燃える氷」と呼ばれるメタンハイドレートや、

ハイテク製品に欠かせないレアアース(希土類)を大量に含んだ泥が、

キラキラと輝く宝のように眠っていることが分かってきました。

レアアースとは

スマートフォン、パソコン、ハイブリッド車、電気自動車など、現代のハイテク製品に不可欠な材料として使用されています。

これがもし商業ベースで採掘可能になれば、資源の乏しい日本が、

一夜にして資源大国へと変貌を遂げる可能性すらある。

まさに未来志向の夢物語のようですが、各国がしのぎを削る、

静かで熾烈な「資源戦争」は、もう始まっているのです。

200海里という境界線は、未来の日本の豊かさを決める生命線と言っても過言ではありません。

静かなる挑戦 – あなたにできること

では、この壮大な海の物語に、私たちはどう関わっていけば良いのでしょうか?

何も、難しいことをする必要はありません。まずは、関心を持つことです。

スーパーで魚を買うとき、その魚がどこの海で獲れたのか、少しだけ気にしてみる。

ニュースで海洋問題が取り上げられたら、他人事とせず、少しだけ耳を傾けてみる。

そして、私たちの出すプラスチックごみが、回り回ってこの豊かな海を汚しているという事実に、

思いを馳せてみてほしいのです。

あなたが今日から始めるその小さな関心が、日本の広大なEEZを守り、

未来の世代へと引き継いでいく、大きな力になるはずです。

この豊かな海を、共に守り育てていきませんか。

まとめ – 200海里は何キロ?

最後に、この記事の要点を箇条書きでまとめます。長い航海、お疲れ様でした。

  • 200海里は「370.4キロメートル」である。
  • この計算は、1海里 = 1,852メートルという国際基準に基づいている。
  • 「海里」は、地球の緯度1分に由来する、海の世界の基本単位。
  • 200海里の範囲は「排他的経済水域(EEZ)」と呼ばれる。
  • EEZ内では、沿岸国が漁業や海底資源に関する経済的権利を独占できる。
  • 航海士自身の体験として、EEZの境界線をわずかに越えただけで拿捕されかける危険がある。
  • 海のルール遵守は、命と財産に直結する重要な問題。
  • 「領海」は岸から12海里で、国の主権が完全に及ぶ「領土」と同じ。
  • EEZと領海は明確に異なり、EEZ内は外国船の航行や上空の飛行が自由。
  • 日本のEEZの広さは約447万㎢で、国土の約12倍。
  • この広さは世界第6位であり、日本は世界有数の海洋大国である。
  • 沖ノ鳥島の存在が、国土面積を超える広大なEEZを日本にもたらしている。
  • 先人たちの護岸工事などの努力により、このEEZは守られてきた。
  • EEZの重要性は、水産資源だけでなく、海底に眠る鉱物資源にも及ぶ。
  • メタンハイドレートやレアアースは、日本の未来を変える可能性を秘めている。
  • EEZは未来の資源を巡る、国家間の静かな競争の舞台となっている。
  • 私たち個人にできることは、まず海洋問題に関心を持つこと。
  • 日常生活での選択(魚の産地、ごみ問題など)が海を守る一歩になる。
  • 200海里という数字は、単なる距離ではなく、国の豊かさと未来そのもの。
  • この記事が、あなたが海を見る目を少しでも変えるきっかけになれば幸いである。

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